それでもわたしを走らせたもの
静かな曲を聴きたくなった。部屋を暗くしてフットライトと間接照明にする。ランニング用の曲を流す。
やわらかな2分音符の三連符に、わずかにきしむ音も混じったポゴポゴというビートが重なる。テンポは速く音数も少なくないが、静かな曲。
昔この曲を聴きながら朝よく川べりを走っていた。
リバーブの効いたリフが戻ってくる。
走ると爽快だとよく聞く。
私は走っていると、悲しいことや悔しいことを鮮やかに思い出しては暗澹とした気持ちになっていた。暗澹とした気持ちのまま走り続けていた。
そのせいだろう、あんまり最近は走りたくなくなった。
たぶん走るのがいけないのではなく、あの頃はそういう時期だったからというのもあるのだろうけど。
あの頃の心境を思い出して少し苦しくなった。
でも、ああいう中でそれでも、まったく別の試練を控えてなんとか心身の健康を維持しようと必死に走っていたその頃の自分の努力は、どこから来たんだろうと不思議な気がする。
そんなことを少し考えながら、静かな曲をいま聴いている。
苦しさを依然反芻しながらも、このひとときに満足して曲を止める。