蝉が網戸にぶつかってぽたりと落ちる音がした。

 すぐにうるさく鳴き始めるだろう。網戸に接して鳴かれるのはいやだなと思い、網戸を軽く叩いて蝉を追い払おうとしたが、すぐに考え直した。もう死ぬ蝉を追い払うこともない。そんなことをしたら蝉は疲れて寿命も縮まるだろう。好きな場所で鳴けばいい。

 大きく鳴き始めた。

 網戸越しに見る。ベランダの床、コンクリートの上で鳴いている。うるさいけど最後まで聴くよ。


 十数分ほどして、そのうち鳴き声が途切れがちになった。気になって再び見る。

 蝉は不規則に羽を震わせ、ぶつかりそうになりながらも塀を越えて高く飛んでいった。


 それからもう一週間ほどになる。蝉の声はもう聞かなくなった。